視線の先には広大な北海道の大地が広がり、
その地平線に向かって右手を真っ直ぐに掲げた老人は、こう言った。
「Boys, be ambitious.」
北海道だけでなく、全国的に有名であろう人物の言葉である。
「人間が当然のように持つべきものとして、少年少女よ、大志を抱け」
羽田空港から、北海道は中標津空港に降り立った。牛の親子がお出迎えをしている。
この日の気温は15℃。歓迎するかのような雨も降り始める。
空港のトイレで用を足した後に手を洗っていると、目の前の鏡が視界に映る。
そこには、全身で「真夏」を体現したかのような姿をしている自分がいた。
完全に采配ミスだ、と心の中で少し後悔する。自分にとって、この時期の北海道は、とてつもなく寒かった。
30℃の気温に慣れていた身体が悲鳴をあげていた。今すぐにでも上着が欲しい。いや、毛布だ。毛布が欲しい。
とてもじゃないが「大志」なんかを抱いている場合ではない、そこでふと老人の言葉を思い出す。
今の自分に必要なことは、毛布を抱くことだ。
この寒暖の差を和らげるために持つべきものとして、毛布を抱くことだ。
「Boys, be blankets.」
「少年少女よ、毛布を抱け」
そんなしょうもない事を考えている間も、雨脚はどんどん強くなっていく。
中標津町は、草原の地平線が見渡せる≪開陽台≫、自然の中に眠るように位置する≪養老牛温泉≫、
≪裏摩周展望台≫からは、世界で2番目に透明度が高いといわれる≪摩周湖≫を望むことができる。
一部では、摩周湖には「マッシー」なる海獣がいるとかいないとか・・・・・・。
とにかく大自然とロマンに囲まれた、静かで美しい場所である。
ちなみに上の写真は、宿泊したペンションの外観だ。ヨーロッパのような雰囲気が漂っている。
そこに住む愛犬たちも、今の自分には無い、寒さに負けない逞しさを抱いていて、
少し見習いたい気持ちにもなる。
夕食は、中標津では有名な定食屋へ。ボリュームたっぷりの≪ザンギ丼≫を注文。
北海道をはじめ、特定の地域では鶏のから揚げのことを「ザンギ」と呼ぶらしい。
食感も良く、鶏肉ならではのジューシーさがなんとも言えず美味しい。
また、「ザンギ」の種類には、網走産のオホーツクサーモンに代表されるような
魚介類をから揚げにしたものもある。
魚介の≪ザンギ丼≫も、鶏のから揚げと見間違えるほどに美味いと評判らしい。
思い出しただけでもお腹が空いてくるような、存在感を放つご当地メニューだった。
さて、明日も北海道の大地に囲まれた生活が続くわけだが、
天気予報を見る限り、雨が止むことはなさそうだ。
ちなみに、「Boys, be ambitious.」の和訳に関して、
一説には「大志」のような力強い意味合いなどなく、
「まぁ、頑張れ」程度の軽い呼びかけだった、という意見もある。
寒いけど、まぁ、頑張れ。
明日の予定を確認している自分に、老人がそう言っている気がした。